これまでの足取り 戻る

 
 これまでの私のヨーロッパでの足取りについてちょっと触れると、ギリシャからイタリアへ船で渡ったあと、船上で会った大学生の女の子たちとローマへ列車で移動し、2日ばかり部屋をシェアしていた。でも彼女たちが急ぎ旅でいそいであちこち観光しなくちゃいけないっていうから行動は別にして、私はひとりで歩き回り、ある朝は地下鉄駅から近い広場でサンカリストのカタコンベ行きのバスかなんかを探していた。ところがガイドブックがないもんで、すぐさま道に迷ってしまった。そこで途方にくれていたら、イタリア人のジョニーというかっこいいおじさんに拾われて(おじさんと思ったのは間違いで、あとから聞いたら彼は私と同じ歳だった。)バイクでカタコンベに連れていってもらったりお茶をごちそうになったりして大変幸せな時間を過ごした。
部屋をシェアした
エイコ&ナナコ


前に日本人の彼女と
つきあってたことがあるジョニー
 それでとってもイタリアが好きになり、もっとローマがよく見てみたくなって、そのあとローマ市内をまわる観光バスに乗ったら、イギリス人のアンディと知り合った。彼は私と同様(っていうか落ちこぼれたとは言ってなかったけど)、なんとなく人生に行き詰まりを感じ、家も仕事もたまたま都合がついたんで7ヶ月で北半球をまわる旅を計画したんだ、と言ってた。それがちょうど私と逆ルートだったものですっかり話が盛り上がり、晩ご飯を一緒に食べたり情報交換したりしてまた大変楽しいひとときを過ごした。

 私は彼にインドやネパールのオススメの宿を教えてあげ、彼は私にベルリンとかインターラーケンなんかの安宿のパンフレットをくれた。彼はたいへんカッコ悪い男だったけどとってもいいひとだった。その彼が別れ際に「それじゃノーサン、いい旅をね」っていいながらサッと手をひろげ、抱きしめる挨拶をしそうになったので、私はうっかり飛び退いてしまった。彼は気づいて、
「あっごめん僕は日本ではどうやって挨拶するのか知らないもんだから」
といって握手だけして去っていったんだけど、後ずさってしまったことを私は今もとても悔やんでる。いつかその挨拶をマスターするつもりだ。

染めた金髪がとても
似合わないアンディ

 さてそこからベネチア、ウィーンなんかをまわり、ホテル探しにあいかわらず苦労しつづけてたので、私はやっと、毎回まえもってユースホステルを予約するというごく当たり前の知恵をつけた。そしてハンガリーのブダペスト、戻ってウィーン、チェコのプラハ、と順調にユースに泊まり歩いた。あれだけドミトリー(共同部屋)を避け続けていた(できごと日記「ガンジスのほとり」参照)私も、ヨーロッパのユースの清潔さと安さには感銘をうけ、いつしかごく自然にドミトリーの住人になっていた。

 そこから先、私はアムステルダムに行ってみようと思ってた。アムステルダムは、前に番外の「怪談」で出てきた友達のS山田がもう2年も前から行きたい行きたいと言っていた場所だったから、どんなところか見てこなくちゃと思っていたんだ。ただ、チェコからオランダの間にドイツがあるのにすっとばして行くのはなんかドイツに失礼な気がして、適当な中継地を考えたらベルリンになったのだった。しかし、ユースホステルの本で絶賛されてる3軒のユースはどこも予約いっぱい。そこで思い出したのがイギリス人アンディに教えてもらったmitte hostel(旧称backpacker's hostel)だったというわけ。


起きてまず目に飛び
込んでくるこの天井
 mitte hostelはロッカーもないドミトリー形式の宿だったけど、市内にあって結構交通の便もよかったし、近くにスーパーもあるし、キッチンの設備もあるし、第一1泊1300円ぐらいなんで、かなり助かったと思った。部屋の中にベッドがちょっとぎっちり入りすぎてるけど我慢できないほど狭いわけじゃなかったし、天井にベルリンの地図がいきなり描いてあったり、電灯が有名なタワーの形になってたりしてとってもサイケにアートしてるところがおもしろかった。

 そこにチェックインして、初日の晩はスモークサーモンとアボカドを買ってきて食べて寝た。そして、次の朝起きたらうでにじんましんが出ている。さわってみたらひじのへんがすごいボコボコにふくらんでいて、なんか気持ち悪い感じだった。これは昨夜の鮭がいけなかったかなと思ってその日は刺激物や卵は避け、あたりさわりのないものを食べたけど翌日にはさらに発疹が増え、クビにも赤いぶつぶつができていた。薬局に行ってアレルギーなのって言ったらおばさんが、ドクターに見てもらった方がいいわよって言いながらも飲み薬を売ってくれた。それを飲んで寝たけど、翌日は更に増えてもう半袖を着て歩けなかった。

 その晩には私はアムステルダムに出発したわけだけど、あまりに発疹がかゆくて、掻くとまた痛むし、ちょっと困っていた。それに、ちょっとおかしいとも思い始めていた。だって、いままでじんましんが出てもこういうブツブツにはなったことないし、スモークサーモンの製造日はそんなに古くなかったし、鮭であたったこともなかった。でも、虫にやられたと考えるには、ちょっと不自然だとも思っていた。発疹は猫ノミに刺された跡に似ていた。でも一晩の間にあんなにやられるほどいたとしたら絶対1匹や2匹見かけてなくちゃおかしい。私は以前、猫を飼ってた都合上家の中でノミまで飼ってしまったことがあったから、ノミぐらいなら見分けられるはずだけど、mitteにいた数日の間にノミを見かけたことは一度もなかった。隣や近くのベッドに泊まっているひとたちで、カユイって言ってるひともいなかったし、第一虫がいるようなとこだったらアンディが薦めてくれたはずがない。

 それで、長くなったけど、結局アムステルダムで病院に行って、医者に判断を仰ぐことにしたのだ。

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